貧しい靴職人の本当の姿は?



ベールの彼方の生活〈第3巻〉  P46よりお借りしました


ある高級霊から著者オーエン氏への語り


地上の言い方をすれば、"何年も前"のことになるが、靴直しを生業としていた男が、地上を去ってこちら(霊界 ― ケイ注)へ来た。

なんとか暮らしていくだけの収入があるのみで、葬儀の費用を支払った時は一銭も残っていなかった(ほど地上時代は貧しかった ― ケイ注)

こちらで出迎えたのもほんのわずかな知人だけだったが、彼にしてみれば、自分ごとき身分の者を迎えにわざわざ地上近くまで来て道案内をしてくれただけで十分嬉しく思った。
案内されたところも、地上近くの界層の一つで、決して高い界層ではなかった。

が、今も言った通り、彼はそれで満足であった。
というのも、苦労と退屈と貧困との闘いのあとだけに、そこに安らぎを見いだし、その界の興味深い景色や場所を見物する余裕もできたからである。
彼にとってはそこがまさに天国であり、みんなが親切にしてくれて、幸福そのものだった。


ある日のこと(地上的に言えばのことであるが)、彼の住まいのある通りへ一人の天使が訪れた。

中をのぞくと彼は横になって、一冊の本をどこということなく読んでいる。
その本は彼が(死後―ケイ注)その家に案内されて、ここがあなたの家ですと言われて中に入った時からそこに置いてあったものである。
天使が地上時代の彼の名前を呼ぶと、彼はむっくとおきあがった。

「何を読んでおられるのかな?」  と天使が聞いた。

「別にたいしたものじゃありません。どうにかこうにか私にも理解できますが、明らかにこの界の者のための本ではなく、ずっと高い界のもののようです」  と男は答えた。


「何のことが書いてあるのであろう?」

「高い地位、高度な仕事、唯一の父なる神のために整然として働く上層界の男女の大霊団のことなどについて述べてあります。
その霊団の人々もかつては地上で異なった国で異なった信仰のもとに暮らしていたようです。
話しぶりがそれを物語っております。

しかし、この著者は、もうこの違いを認識していないようです。

長い年月の修養と進化によって、今では同胞として一体となり、互いの愛情においても合理的理解力においても、何一つ差別がなくなっております。
目的と仕事と願望において一団となっております。

こうした事実から私は、この本はこの界のものではなく、はるか上層界のもの判断するわけです
(霊界にはいくつもの界があり、死後私たちは、自分の霊格にあった界に住むことになります―ケイ注)

その上、この本には各霊団のリーダーのための教訓も述べられているようです。
というのは、政治家的性格や統率者的手腕、リーダーとしての叡智、等々についての記述もあるからです。

それで今の私には興味はないと思ったわけです。
遠い遠い将来には必要となるかも知れませんけど・・・
一体なぜこんな本が私の家に置いてあったのか、よく知りません」


そこで天使は開いていたその本を男の手から取って閉じ、黙って再び手渡した。
それを男が受け取った時である。

彼は急に頬を赤く染めて、ひどく狼狽した。
その表紙に、宝石を並べて綴られた自分の名前があるのに気づいたからである。

戸惑いながら彼はこう言った。
「でも私にはそれが見えなかったのです。今の今まで、私の名前が書かれてあるとは知りませんでした」

「しかしご覧のとおり、あなたのものです。 と言うことは、あなたの勉強のためということです。
いいですか。 ここはあなたにとってはほんの一時の休憩所に過ぎないのです。
もう十分休まれたのですから、そろそろ次の仕事に取りかからなくてはいけません。
ここではありません。
この本に出ている高い界での仕事です」


男は何か言おうとしたが口に出ない。
不安の念に襲われ、しり込みして天使の前で頭を垂れてしまった。
そしてやっと口に出たのは次の言葉だった。

「私はただの靴職人です。 人を指導する人間ではありません。
私はこの明るい土地で平凡な人間であることで満足です。
私ごとき者にはここが天国です」


そこで天使がこう語って聞かせた。

「そういう言葉が述べられているということだけで、あなたには十分向上の資格があります。
真の謙虚さは上に立つ者の絶対的な盾であり、防衛手段の一つなのです。

それにあなたはそれ以外にも強力な武器をお持ちです。
"謙虚の盾"は消極的な手段です。

あなたはあの地上生活の中で、攻撃のための武器も強化しておられた。

例えば、靴をつくるあなたは、それをなるべく長持ちさせて、貧しい人の財布の負担を軽くしてあげようと考えた。
儲ける金のことよりもそのことの方を先に考えた。
それをモットーにしておられたほどです。

そのモットーが、あなたの魂に沁みこみ、あなたの霊性の一部となった。
こちらではその徳は決してぞんざいには扱われません。

その上あなたは日々の生活費がひっぱくしているにも関わらず、時には知人宅の収穫や植えつけ、屋根ふきなどを手伝い、時には病気の友を見舞った。
そのために割いた時間はろうそくの灯りで取り戻した。
そうしなければいけないほど、生活費に困っておられた。

そうしたことはあなたの魂の輝きによってベールのこちら側からことごとく判っておりました。
というのも、こちらの世界には、私たちの肩越しに天界の光が地上世界を照らし出し、徳を反射し、悪意は反射しないという、そういう見晴らしがきく利点があるのです。

ですから、正しい生活を営む者は、明るく照らし出され、邪悪な生活を送っている者は、暗く陰気に映ります。

このほかにも、あなたの地上での行為と、そのいきさつについて述べようと思えばいろいろありますが、ここでがそれはおいておきます。
それよりも、このたび私がたずさえてきたあなたへのメッセージをお伝えしましょう。

実はこの本に出ている界に、あなたの到着を待ちわびている一団がいるのです。
霊団として組織され、すでに訓練も積んでおります。

その使命は、地上近くの界を訪れ、他界してくる霊を引き取ることです。
新参の一人ひとりについて、良く観察して、適切な場を選び、そこに案内する役の人に引き渡すのです。

もういつでも出発の準備が用意できており、そのリーダーとなるべき人の到来を待つばかりとなっています。
さ、参りましょう。
私がご案内します」


それを聞いて彼はひざまずき、額を天使の足元につけて涙を流した。
そしてこう言った。

「私にそれだけの資格があればまいります。
でも私にはとてもその資格はありません。
それに私はその一団の方々を知りませんし、私に従ってはくれないでしょう」


すると天使がこう説明した。

「わたしがたずさえてきたメッセージは、人物の選択において決して間違いを犯すことのない、大天使からのものです。

さ、まいりましょう。
その一団は決してあなたの知らない人たちではありません。
というのは、あなたの疲れた肉体が眠りに落ちた時、あなたはその肉体から抜け出て、いつもその界を訪れていたのです。

そうです。
地上にいる時からそうしていたのです。
その界において、あなたも彼らと一緒に訓練をなさっていたのです。
まず服従することを学び、それから、命令することを学ばれました。

お会いになれば皆あなたのご存じのかたばかりのはずです。
彼らもあなたをよく知っております。
大天使も力になってくださるでしょうから、あなたも頑張らなくてはいけません」



そう言い終わると、天使は男を従えてその家をあとにし、山に向かってあゆみを進め、やがて峠を越えて次の界へ行った。

行くほどに男の衣服が明るさを増し、生地が明るく映え、身体がどことなく大きくかつ光輝を増し、山頂に登る頃には、その姿はもはやかつての靴職人のそれではなく、貴公子のそれであり、まさしくリーダーらしくなっていた。

道中は長引いたが楽しいものだった(長引いたのは本来の姿を穏やかに取り戻すためであった)。
そしてついに霊団の待つところへやってきた。

ひと目見て、男には彼らの全てが確認できた。
出迎えて彼の前に整列した彼らを見た時には、彼にはすでにリーダーとしての自信が湧いていた。
各自の目に愛の光を見たからである。


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